第5回
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最優秀賞
あばら家を 桃源郷にする 銘酒
三郎(千葉県 男性 66)作者コメントたぶん映画館の壁に貼られた極彩色のポスターのせいだろう。私は長い間、子供の頃に見た初代『ゴジラ』はカラー映画とばかり思い違いをしてきた。同じように大人になって訪れる故郷は、色鮮やかに網膜に焼き付いている子供の頃とどこか違う。その若干寂しい違和感を癒やしてくれるのは、生まれ育ったあばら家と父が愛した昔ながらの地酒だ。
渡辺氏選評「おいおい、押すなよ。こぼれるじゃないか」「ごめーん、お父さん。はい、私が注いであげる」「おお、すまんな」「お姉ちゃん、僕にもちょうだい」「はい、あんたはジュースね」。狭いながらも楽しいわが家。家族の笑顔とおいしいおつまみとお酒があれば、まるで桃源郷にいる気分です。
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優秀賞
家飲みを 通した父の 喜寿祝う
おさぼう(大阪府 男性 52)作者コメントこの度はどうもありがとうございます。父のことですが、父はとにかく家飲みが好きで、外では滅多に飲みません。家族と一緒に飲んだり食べたりするのがいいらしいです。そんな父の喜寿のお祝いは、もちろん家飲みの豪華版でしました。とても盛り上がり、忘れられない1日になりました。
渡辺氏選評付き合いが悪いと言われても、父は毎晩仕事が終わるとまっすぐ家に帰ってきた。毎日せっせと働いて、こつこつと貯金し家のローンを返済した。退職しても家飲みを通してきた、そんな生真面目な父の喜寿を家族でささやかに祝う。父さん、これまでありがとう。そしてこれからもどうぞよろしく。
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優秀賞
それぞれの ペース手酌の 三世代
小竹八重子(兵庫県 女性 70)作者コメント私は曾祖父のいる大家族で育ちました。何事につけ、飲む機会が多かったのですが、母は料理を作るのに追われ、お酌どころではありません。それぞれに手酌を楽しんでいたように覚えております。核家族の増えた今、遠い昔の光景を懐かしく思い返しています。
渡辺氏選評祖父は日本酒をちびちびと飲み、父はウィスキーをロックでじっくり味わう。僕はビールをぐいぐいあおる。三世代、みんなそれぞれ好きなお酒を、それぞれのペースを保って飲む。手酌の良さってこれですよね。
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灘五郷賞
卓袱台の 熱燗 天下とる気負い
渡辺桂太(福岡県 男性 73)作者コメント卓袱台でちびりちびり熱燗の2~3本も飲めば大言壮語していたことが、今からみれば恥ずかしくもあり、懐かしくもある。結局、夢は一歩も進まず、ちろちろ燃えていた志もいつしか熾火となり、今は火消壺のなか。川柳と出会い半世紀。たくさんの川柳を創り、素晴らしい川柳の仲間にも出会いました。これからも川柳の心を大切にして創作に励んでいきたいと思います。「灘五郷賞」ありがとうございました。
渡辺氏選評このところ卓袱台が静かなブームだそうです。コンパクトで場所を取らず、狭いワンルームにもぴったり。卓袱台を人数分並べれば、それだけでもう立派な宴会。熱燗徳利も、まるで天下をとったような大きな顔をしています。
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伍魚福賞
一口で 高級珍味 食べる孫
良牙(広島県 女性 32)作者コメントこの「孫」とは、幼いころの私のことです。親戚からのお土産で、高級珍味をいただくことがあったのですが、その価値を知らない当時の私は、ぱくりと一口で食べてしまいました。母から「もっと味わって食べなさい」と怒られましたが、もう一口ぱくり。あきれる母とそれをなだめる祖父を、懐かしく思い出しながら句作しました。
山中勧伍魚福社長選評3世代揃っての、楽しくにぎやかな「家飲み」シーンが眼に浮かびます。子供さんは「おいしい」と思ったら値段に関係なく食べてしまいますね。伍魚福社長の立場から言いますと、お子さん、お孫さんが高級珍味をパクパク食べても優しく見守ってあげていただきたいです(笑)。
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佳作
ニコニコと よう呑む嫁が やってきた
春すみれ(兵庫県 女性 61) -
佳作
気の置けぬ 友に気取らぬ 酒を出す
K・F(北海道 女性 49) -
佳作
少し老い 兄弟姉妹 古酒に似る
小林康浩(大阪府 男性 59) -
佳作
二人だね 二人ですねと 古希の酒
十六夜(神奈川県 女性 57) -
佳作
週二日 禁酒と妻の 仮処分
江連敏子(栃木県 女性 50) -
入選
あれあれと それそれだけで 飲むわが家
小川正男(群馬県 男性 80) -
入選
家で飲む ヤンチャ亭主と 陽気妻
原理恵子(大阪府 女性 56) -
入選
息子から つがれて下戸の 3センチ
チャーチャン(愛知県 女性 66) -
入選
家にいる 〝ママ〟の水割り 超うすい
とんとん(埼玉県 女性 56) -
入選
高燃費 毎晩給油 ポンコツ車
丸山宣久(長野県 男性 81) -
入選
百薬の長を トクホと呼び 二合
サケノミ・クス(東京都 男性 59) -
入選
健診の 結果グッドで 祝い酒
クーコちゃん(兵庫県 女性 72) -
入選
孫と爺 シュウカツ同志が 祝い酒
高橋一吉(兵庫県 男性 66) -
入選
酔拳も 飲めば飲むほど 弱くなる
秋冬(和歌山県 男性 40) -
入選
家飲みは メイクは薄く 本音濃く
汐海岬(東京都 女性 44) -
入選
スッピンの 顔とこころで 旨い酒
風信子(東京都 女性 56) -
入選
パパくさい あれから10年 飲み友に
もりもりはやし(北海道 男性 47) -
入選
ああうめえ 酔わんと思たら ノンアルじゃ
蛙屋柳齋(福岡県 男性 72) -
入選
完璧な 同僚のスキ 見えた夜
ななゆき(千葉県 女性 30) -
入選
おしまいと 言う孫の陰 バアバあり
テクノボー(栃木県 男性 60) -
入選
母だって 息子と飲むのは 夢なのよ
岸田菜穂(兵庫 女性 42) -
入選
我が家では 総活躍と 婆も呑み
泉州男(大阪府 男性 68) -
入選
古希祝う 妻と二人で 灘の酒
江口務(佐賀県 男性 81) -
入選
妻が酌 なにかあるなと 味も消え
ボケおじん(新潟県 - -) -
入選
居間で飲み ベランダで飲む はしご酒
三上武彦(東京都 男性 74) -
入選
祝杯だ! 何の祝いか わからぬが
口笛人生(愛知県 男性 52) -
入選
食器洗い 入浴までが 家飲みです
はること(神奈川県 女性 29) -
入選
目覚めれば 妻も隣で 酔いつぶれ
中年やまめ(神奈川県 男性 69) -
入選
仏壇の 父を招いて 盆の酒
佐藤千恵子(愛知県 女性 62) -
入選
家のれん くぐれば妻が 「いらっしゃい」
難波安津子(岡山県 女性 48) -
入選
リビングで 父飲み始め 家族散る
飛魚次郎(東京都 男性 26) -
入選
街バルが 出会いの夫婦 今家バル
袴田奈月(静岡県 女性 28) -
入選
又開ける 閉じたばかりの 一夜干し
只野のん兵衛(神奈川県 男性 66) -
入選
建前を 本音に変える 親子酒
みらいむ(東京都 女性 56) -
入選
遠回りしても 伍魚福 買える店
かきくけ子(岐阜県 男性 65) -
入選
君の手と イカ握りしめ プロポーズ
長峯雄平(東京都 男性 37) -
入選
おそろしや 酒うまいかと 孫が聞く
富田圭一(兵庫県 男性 78) -
入選
酔ったのね 握手している 父と彼
林田麻裕(京都府 女性 26) -
入選
家で飲む 酒が取りもつ きずなの輪
永下茂和(石川県 男性 68) -
入選
娘見て 酔って妻見て 酔いさめる
満川恒朗(静岡県 男性 55) -
入選
ダンナ留守 空き缶コロコロ パラダイス
長谷川幸子(兵庫県 女性 -) -
入選
あたりめが 俺の差し歯に 勝利した
のこった(神奈川県 男性 43) -
入選
居酒屋が ランドマークの 過疎の町
みどり(兵庫県 女性 73) -
入選
子が帰る 支度する母 待てぬ父
酔魚(神奈川県 女性 69) -
入選
子の帰省 いつもの酒が 大吟醸
太吟嬢(福岡県 女性 58) -
入選
片付けは みんな下戸(わたし)が やらされる
稲森朔月(三重県 - -) -
入選
この夏の 酒のつまみは リオ五輪
まっちゃん(北海道 女性 52) -
入選
家飲みが 時にアウェイに なる私
小林由美(大阪府 女性 53) -
入選
酔って言う 妻への感謝 あしらわれ
HATSUKO(千葉県 女性 63) -
入選
心まで のぞかれそうな 妻の酌
札場靖人(東京都 男性 43) -
入選
ネクタイと 肩書き脱がす 妻の酌
井上靖(神奈川県 男性 58) -
入選
愛娘 注ぐビールは 泡まみれ
きょーへー(大阪府 男性 36) -
入選
妻飲めば 肴出(い)でくる 次々と
章魚男(兵庫県 男性 64) -
入選
我が家にも 酔ったポケモン ノンダクレ
K・U(福島県 男性 58) -
入選
缶の山 ガーデンパーティー 夢のあと
ヒロ爺(神奈川県 男性 45) -
入選
子の酌と 妻の笑顔は 百薬に
黒飛義竹(広島県 男性 72) -
入選
僕クスリ 妻はビールを 飲んでいる
竹村穏夫(大阪府 男性 74) -
入選
妻の歌 褒めて追加の もう一本
タマツ(石川県 男性 62) -
入選
伍魚福が あると友だちから メール
春木一恵(大阪府 女性 73) -
入選
カネ要らず 酒も珍味も もらい物
大川光一(群馬県 男性 66) -
入選
珍味ダヨ 全員週5 食べあきず
珍極ファミリー(神奈川県 男性 34) -
入選
空き缶の 貢献率は 地域一
いちごチョコ(埼玉県 女性 33) -
入選
家族ふえ 家飲みふえて 幸ふえる
バディトム(長崎県 女性 56) -
入選
Beer注ぎ grillで炙るは 一夜干し
加利福(米国 女性 30) -
入選
ノンアルも 妻と飲んだら 悪酔いし
中山清(熊本県 男性 43)
第5回 伍魚福家飲み川柳選者 渡辺美輪氏(川柳専門誌「現代川柳」編集長)総評
今年の応募総数は4445句。まずはざっと目を通して一次選考。いい句だな、と思った中でも、「家飲み」ではなく「外での宴会」と取れそうな句や、家族のつながりを詠んではいますがお酒には関係なさそうな句は外させていただきました。それから似たような言い回しや同じような発想の句を外し、同じ人の作品は一番いい一句のみ残していきます。まず100句まで絞り込み、さらに二次選考で40句に。いずれも力作揃いで、どれを入選にするかギリギリまで悩みました。入選作品は、いずれ劣らぬ銘酒なみの珠玉の味わいです。今年もおいしい作品をありがとうございました。